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タヒチ種バニラビーンズの特徴とバーボン種との相違
バニラビーンズとは
バニラはラン科のつる性植物。
中央アメリカが原産で110種もの品種があるが、現在広く栽培されているのは3種だけです。
ポッドPodと呼ばれる豆様の鞘内に無数の種子を入れ、発酵あるいはキュレーションCurationという過程を経ると、芳香を持つようになります。
①バニラ(バーボン種、バーボン・マダガスカル種);Vanilla planifolia,あるいはV. fragrance
一般的に汎用されているもので、南北緯20度以内の熱帯性気候地域で栽培されています。
②ニシインドバニラ;V. pompona
バニラより芳香は劣るが性強健作用があり、バニロンとして食品香料のバニリンの原料として使用されるようです。
③タヒチアンバニラ;V. tahitensis
フランス領タヒチ島に導入され、バーボン種、ニシインドバニラ及びV. odorataとの交雑種であることが確認されています。
交雑種の意味を含めて、タヒチではVanilla x tahitensisと表記するようです。
バーボン種に比べて栽培は難しく、普段の注意が必要であることから主に勤勉なメラネシア系の人々によって栽培がおこなわれているようです。
バーボン種とは異なる特徴を持ち、現在ではインドネシアやパプアで広く栽培されています。
バニラの生産量
2017年の統計によると、総ての種類のバニラは世界全体で約8,000トン生産されています。
その内マダガスカルが最大で3,200トン、次いでインドネシア2,400トン、中国660トン、メキシコ500トン、パプアニューギニア500トンです。
フランス領タヒチの生産量は、全体の1%以下と非常に少ない。
2017年、2018年のマダガスカルの干ばつやサイクロン、更に栽培技術の未熟さがあり、供給量の減少に伴い価格が高騰しました。
これを契機にして、バニラビーンズに対する世界の消費者の再認識と高級香料、天然物としての関心度が高まったと言えます。
また、2020年の武漢コロナウイルス感染症の世界的流行によって、流通に支障が出ており、バニラビーンズは市場に品薄になっており、再度価格の上昇傾向にあるようです。
タヒチ種 (a)害虫防止屋内栽培のバニラの蔓 (b)花 (c)成熟した鞘 (d)キュレーションした鞘
タヒチアンバニラビーンズの特徴
バニラは植物名であり、芳香を持つポッドPodをバニラビーンズと呼びます。
タヒチアンバニラビーンズには、バーボンバニラビーンズとは異なる芳香があるのが大きな特徴です。
ですから、高級菓子のパテシエが新鮮果実、各種クリーム、焼き菓子、様々な飲料、サボイクリームソースなどに使用がしています。
バーボン種に代わる人気上昇の高級香料の地位を確保し始めているようです。
タヒチアン種の特徴は、科学的、官能的に分析され、バーボン種との違いが明確にされています。
分析評価の方法は、以下の3つの手法で行われています。
①香気の官能評価
②香気物質の定量分析
③香気物質の強度
タヒチアン種とバーボン種の違いを、二つの研究報告を参考にご説明いたします。
参考文献
1. M Takahashi et. al. Identification of the Key Odorants in Tahitian Cured Vanilla Beans (Vanilla tahitensis) by GC-MS and an Aroma Extract Dilution Analysis.
Biosci. Biotechnol. Biochem., 77(3), 6-1-6-5, 2013
2. C Brunschwig et al.. Tahitian Vanilla (Vanilla xtahitensis); A Vanilla Species with Unique Features. INTECH Chapter 3, 29-47, 2017
http://dx.doi.org/10.5772/66621
1.香気の官能評価
参考文献1の研究では、香りを7種類の属性に分類して、タヒチ種とバーボン種を定量的に官能評価しています(下表)。
その結果、タヒチ種はバーボン種に比べて花の薫りが強く、乾燥果実様の匂いや樹脂の匂いが弱いことが確認されました。
属性 | タヒチ種 | バーボン種 |
Floral(花の薫り) | 6.1** | 3.4 |
Dried fruit-like(乾燥果実様) | 4.5 | 5.7* |
Resinous(樹脂の匂い) | 4.4 | 5.8** |
Hay-like (枯草様) | 3.7 | 4.3 |
Metallic(金属臭) | 3.8 | 3.5 |
Phenolic(フェノール臭) | 4.2 | 4.0 |
Sweet (甘い匂い) | 4.3 | 5.5 |
数値は平均値
*は両種で有意差が認められている
原表を一部改変
一方、参考文献2の研究では、タヒチ産タヒチ種とパプアニューギニア産とマダガスカル(バーボン)種の匂いの定量的な官能検査を実施しています(下図)。
これら三種の大きな違いは、
タヒチ産タヒチ種はバニラとアニスの薫りが他の2種と比べて際立って強いことです。
Fruity (果実)な薫りは、タヒチ種では弱いことも確認できています。
また、バーボン種はPhenolic (フェノール)臭, Woody (木質系, 樹脂)の匂い、Smoky (煙様)の臭いが他の2種に比べ強いことです。
バニラビーンズタヒチ種とバーボン種との官能プロファイル
2. 香気物質の定量分析
参考文献1の研究ではタヒチ種バニラビーンズの揮発性物質、参考文献2の研究ではタヒチ種とバーボン種の揮発成分をHPLCによって定量分析を行っています。
タヒチ種バニラビーンズの主な揮発性香気成分の分析によると、含有量が多いものからVanillin, Anisyl alcohol, Acetic acid, Anisaldehyde, Anisyl acetate, Guaiacol, Isovanillinが確認されています。
香気成分 | 含有量 (ppm) |
Vanillin (バニリン) | 31,700 |
Anisyl alcohol(アニスアルコール) | 31,500 |
Acetic acid (酢酸) | 7,380 |
Anisaldehyde (アニスアルデヒド) | 1,320 |
Anisyl acetate(酢酸アニシル) | 250 |
Guaiacol(グアヤコール) | 190 |
Isovanillin(イソバニリン) | 57 |
原表を一部改変
一方、参考文献2の研究ではタヒチ種とバーボン種の揮発成分をHPLCで分析を行っています。
この結果としては、バーボン種に特徴的な成分としてVanillin(バニリン),Vanillyl alcohol(バリニルアルコール)があげられます。
タヒチ種に圧倒的に多い成分としてAnisyl alcohol(アニスアルコール), Anisic acid(アニス酸), Anisic aldehyde(アニスアルデヒド),p-Hydroxybenzoic acid(p-ヒドロキシ安息香酸), Isovanillin(イソバニリン), p-Hydroxybenzyl alcohol(p-ヒドロキシベンジルアルコール)などが確認されています。
タヒチ種のバニリン含量は、バーボン種に比較し約50%の結果で(1)の研究に比べて少ない。
しかし、バニリンはアニスアルコールと同程度の含有であり、バニリンとアニスアルコール含有量の比は、両研究で同じと言えます。
参考文献1の研究ではキュレーションが最適に行われたことによるものと、タヒチ研究所は結論しています。
両研究による揮発性物質の定量分析の結論として、タヒチ種はバーボン種に比較してバニリン含量は同等か少ないものの、タヒチ種に特徴的なアニスアルコール、アニスアルデヒド、酢酸アニシルなど特有の揮発性芳香物質が含まれています。
本研究では同定されていませんが、タヒチ種には睡眠導入効果のあるヘリオトロピンが含まれ、快眠が得られます。
これらの香料成分の違いによって、タヒチ種はバーボン種に比べてバニラビーンズとしての芳香性の差がでていると言えます。
バニリン | バリニルアルコール | イソバニリン |
アニスアルコール | アニス酸 | アニスアルデヒド |
| ||
p-ヒドキシ安息香酸 | p-ヒドロキシベンジルアルコール | |
タヒチ種バニラビーンズに含まれる主要香気成分 |
3.香気物質の強度
香気成分の分離や官能検査では、ガスクロマトグラフィーによる分離と嗅覚計の組み合わせて行うことが定量分析必要となります。。
参考文献1の研究では、この方法によってタヒチ種バニラビーンズの主要な香気成分を希釈することによって香気の強度を測定している。
その結果、バニリン、アニスアルデヒド、アニスアルコール、酢酸アニシルは強い香気を有することが確認され、これらがタチアンバニラビーンズの特徴を示すものです。
成分 | 香気品質 | 希釈率 |
バニリン | 甘く、バニラ風 | 1,953,125 |
アニスアルデヒド | アニスおよびラズベリー様 | 1,953,125 |
アニスアルコール | 花の香気、アニス様 | 390,625 |
酢酸アニシル | 花の香気、干しブドウ様 | 15,625 |
酢酸 | 酸性、サワー | 625 |
グアヤコール | フェノール、医薬品臭 | 125 |
イソバニリン | フェノール、医薬品臭 | 125 |
その他の成分 | 125或いはそれ以下 |
一方、参考文献2の研究では、タヒチ種、バーボン種、ニシインドバニラビーンズについて、同様にガスクロマトグラフィーによる分離と嗅覚計を用いて、定量官能評価を行っています。
香気品質として、①アニス+スパイシー、②フェノール+バニラ、③花の香気+アルデヒド+フルーティ、④バター+チーズ+脂肪、⑤硫黄+土、⑥ナッツ+焙煎、⑦その他の7分類にして成分含量の比較がされています。
本研究でのタヒチ種の特徴は、
アニスアルコール、アニスアルデヒド、アニス酸メチル、酢酸アニスなどのアニシル系成分が全揮発成分の70%を占め、バーボン種の7%に対して非常に高含有ということです。
一方、バニリン含有率は5~10%とバーボン種の30%に対して少ないにも拘らず、タヒチ種はバーボン種に比較して、アニス、カラメルやバニラの強い香りを醸しだします。
タヒチ種バニラビーンズの特徴のまとめ
タヒチ種の大きな特徴として、
1. 官能評価でフローラル(花の香気)な香りが強く、バーボン種のような乾燥果実や樹脂・木材系の匂いが少ない。
2.揮発性成分の定量分析では、タヒチ種にはアニス系成分が多く、バニリン含量はバーボン種に比べて同等あるいは少ないにも拘わらず、バーボン種に比較してバニラの強い芳香性を持っている。
バーボン種は揮発性成分の種類が極めて少ない。
3.タヒチ種の香気成分分布はバーボン種と異なり、バニリンに加えアニスアルコール、アニスアルデヒドなどアニス化合物の関与が大きい。
4.タヒチ種バニラビーンズは多様な揮発性香気成分に富み、バーボン種とは区別され、豊潤な香気をもつバニラビーンズと言えます。
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